テキサス州の連邦地裁は、オバマ前大統領の政策(DACA、Deferred Action for Childhood Arrivals)は憲法違反であるとの判決を下しました。
州の地裁レベルの判決ですから、当然控訴され、最高裁までいく話だと思います。
当事務所でも当時記事にしており、このときは、米国政府機関が閉鎖されるというただならぬ状況の方に、関心がありました。
約3年たった今、日本を取り巻く状況を考えると、米国のこの騒動は決して他人事ではないです。
あらためて「不法移民」について考えさせられました。
DACAについて触れた、当事務所の過去記事はこちら↓
DACAとは?
DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)とは、2012年にオバマ政権が作った政策です。
いつもどおりざっくり説明します。
親に連れられてアメリカに不法入国した子供は、自分の意思で不法に国境を越えたわけではないので、犯罪者ではありません。
しかし正式な在留資格がないので、就学や就職、海外渡航において、いろいろと支障がありました。
それを、犯罪歴のないことや2年ごとの更新を条件に、強制送還を免れ、かつ就労資格を与えるという制度でした。
オバマが作ってトランプがひっくり返す
今回の判決は、DACAの中身を評価したのではありません。
そもそもDACAの制度は、オバマ政権が議会の承認を得ずに運用していたものでした。
憲法に定められた手続を経ていなかった、という落ちです。
これを当時のトランプ大統領は、制度自体の撤廃を議会に決めさせようとしていました。
つまり支持不支持はどうあれ、足りていなかった手続は、議会を通せば行われるはずでした。
しかし撤廃を反対する裁判が提起され、制度の撤廃自体が、トランプ大統領の独断的で根拠のない行為とされたため、DACA制度はそのまま運用されていました。
ところがテキサス州において、制度自体の不備(専門用語で瑕疵と言います)を指摘され、今回の判決に至ったものです。
DACAは良いのか悪いのか
行政書士として、またアメリカビザ申請をサポートしている者として、不法入国した人の権利を救済するのは、移民法としてどうだかな~と思ってしまいます。
なぜなら、アメリカの移民法はとても厳しくて、短期の観光ビザの申請すら、あれこれ言われて不許可になる人が多いからです。
ましてや就労ビザやグリーンカードの申請となると、移民弁護士に依頼して何百枚もの資料を準備し、経済的にも社会的にも問題ないことを証明しなくてはなりません。
いくら自分の意思では無いとは言え、不法入国者が救済される道が開けるのは、適法にビザ申請している人達にとって、不公平ではないでしょうか。
もちろん、救済されるべき個々の事情はあるでしょうから、ケースバイケースで善処して、チャンスを与えて欲しいです。
しかし制度として成立させて、新規も含めて受け入れる前提にするのは、やりすぎではないかと。
日本の「不法移民」について
先日、アメリカの国務省から「人身取引報告書」が発表され、日本に対しても厳しい言及がありました。
技能実習制度や若年層の売買春が問題とされ、日本政府はこれらを改善する取り組みが不十分との見解でした。
技能実習に限らず、「ブラック労働」や「性産業への強制」などは、人身取引の一つです。
外国人就労者が職を失って生活に困ったあげく、犯罪に巻き込まれるケースは、Covid-19後増えたと言われています。
外国人就労者にも、日本国憲法で保障する「転職の自由」があります。
良い条件を求めて転職するのは当然ですし、在留期間が長くなれば、永住申請もしたいでしょう。
しかし一度間違って入管法の違法状態になってしまうと、ずるずると良からぬ環境に陥ってしまう人がいるのも事実です。
将来の転職や永住申請のためにも、初回入国時の資格審査は大事です。
少なくとも自分が認定証明書を申請した方々には、適法に長期滞在していただき、日本に来て良かったと思っていただきたいですね。
移民問題は政治問題
アメリカは南米の国々と陸続きですから、国境を越えて不法入国する人が後を絶えません。
不法入国者は、人身取引や麻薬売買などの犯罪に巻き込まれてしまうことが多く、共和党のトランプ大統領はそれを懸念して、「国境に壁を作る」と言っていたそうです。
民主党のバイデン政権は、可能性あふれる若い移民層にチャンスを与えようと、今後もDACAを推進するでしょう。
DACAがあれば、南米の人々は希望をもってアメリカを目指すでしょうし、これはどちらが良いのかわからないです。
アメリカで起こることは、数年経って日本でも起こると言われています。
和製DACAができる日が来るのでしょうか。