米中貿易戦争は、こんどは領事館閉鎖の応酬となっています。
米国が、ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を突然命令し、大量の書類を処分したためと思われるボヤ騒ぎがあったりもしましたが、総領事館は24日に退去しました。
次にその報復として、中国が成都にある米国総領事館の閉鎖を命じ、米国総領事館は72時間後の27日に正式に閉鎖したと、中国側からのアナウンスがありました。
外交の拠点閉鎖にまでエスカレートした両国の関係には、「すでに本物の戦争が始まっている」との見方をする専門家もいるようです。
領事館の閉鎖
ヒューストンと成都のそれぞれの領事館は閉鎖しましたが、もちろんこれだけで外交が断絶するわけではありません。
米中双方とも地方都市の領事館はまだ他にもありますし、中心となる大使館は無事です。
それぞれの領事館が行っていた業務は、他の地域の領事館や大使館が代わって受け持てば穴は空きません。
大使館と領事館の違い
大使館と領事館の違いについてご説明します。
単純に言うと
大使館にいる偉い人…大使一人+領事
領事館にいる偉い人…領事のみ
となります。
各国駐留の領事は複数人いても、大使は一人しかいないからです。
大使館と領事館では役割も異なります。
大使館…領事業務+文化やビジネスの交流
領事館…領事業務がメイン
領事業務は、管轄区域の居住者のためのビザや認証、出生や婚姻などの各種届出、パスポートの更新などの事務が中心となります。
地方の領事館ではできない手続が、中央の大使館ではやってもらえたりと、大使館がメインで領事館がサブの役割分担と言って良いでしょう。
在日米国大使館の例
東京にある米国大使館には領事部があって、独立しています。
毎日(コロナになる前は)大勢のビザ申請者や市民サービスを受ける方が来訪し、入館前のセキュリティチェックにできる行列が、領事部の目印でした。
この領事部の他に、東京の大使館には日米のビジネスを促進する商務部や、留学をはじめとする文化交流を進める広報・文化交流部などがあります。
参考:在米中国総領事館の管轄
下の地図は、米国の中国総領事館の管轄地域を示したものです。
ヒューストンの中国総領事館で担当していた地域は8つの州(アラバマ、アーカンソー、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピ、オクラホマ、テキサス)にまたがって、それだけでも広大ですよね。
領事館閉鎖の影響を受けるのは?
こうしてみてみると、大使館や領事館というところは、諜報活動や犯罪者が駆け込む映画の世界とは全然違うと思いませんか?
もっとずっとビジネスや市民生活に密着していて、自国と駐在国をつなぐ役目をしています。
ですので米中の総領事館が閉鎖して困るのは、一番に、中国に渡航したい米国人と米国に渡航したい中国人です。
二番目は、中国と取引する米国企業と米国と取引する中国企業。
政府どおしの対立はどうしようもないけれど、困るのはスパイではなく一般人です。
ヒューストンの中国総領事館の業務は、今後ロサンゼルスの総領事館やワシントンの領事部で分担して対応するのでしょう。
しかし、申請者本人が出頭しなくてはならない手続には、まず長旅をしなくてはならなくなりました。
それは成都の総領事館でも同じことですが、数のバランスで考えると、「米国に渡航したい中国人」と「中国に渡航したい米国人」では、圧倒的に前者が多そうですよね。
厳格なセキュリティチェックと一般人の自由な渡航往来は完全には両立できません。
領事館を閉鎖されると困るのは中国籍の方々が多いので、簡単ではないものの、中国政府が早めに妥協してくれると良いですね。
米中関係に関する前回の記事はこちら↓
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